Modの歴史について補足したい事

日本の大手メディアが珍しくModの話題を取り上げている。

Modというのは、リンク先にもあるようにユーザーが作成した、市販ゲームの改造プログラムのこと。その内容は、単にグラフィックを入れ替えるだけの単純な物から、FPSゲームを3Dカーレースに作り替えてしまうような強烈な物まで、非常にバラエティーに富んでいる。上記リンク先の紹介記事の内容があまりにも酷いので、Modの歴史についてもう少し詳しく補足しておきたい。

アメリカに置いてMod作りが勃興したのは、id software出世作でありFPSというジャンルを世に知らしめた*1DOOM」だろう。「DOOM」の敵キャラクターをディズニーキャラに置き換える「ミッキーマウスDOOM」や任天堂キャラに置き換える「マリオDOOM」といったキャラクターの置き換え*2に始まり、やがてユーザー自身が本格的な独自マップを作成できるマップエディタが開発され、さらにマップエディタを使って優秀なマップが次々と発表されるという好循環が生まれた。
DOOM自体が、当初はシェアウェアとしてオンライン販売や雑誌添付CD-ROMへの収録が積極的に行われたことで販売を伸ばした経緯から、id softwareは当初からこの動きに好意的だったようだ。そして、FPSをPCゲームのスタンダードに押し上げた「Quake」のリリース時に、当時ジョン・カーマックと並んでid softwareの看板クリエイターだったジョン・ロメロが画期的な決断をくだす。それは、id softwareの最新作だったQuakeの仕様や開発環境そのものを発売と同時にユーザーに無料で公開する*3というものだった。自社のノウハウの塊である最新ゲームタイトルの技術を公開するというのは、当時としても非常に斬新な決断だった。
Quakeは、あのDOOMの次回作という期待感に加えてゲームそのものの完成度の高さもあり大ヒット*4。さらに、アメリカの優秀なハイアマチュア達が、公開された開発環境に飛びつき次々と優秀なModを作り上げて無料公開したことから、Quake文化圏とも言える巨大なエコシステムを作り上げることに成功する。結果、それがますますQuakeの売り上げを押し上げ、さらにゲームの寿命を延ばす効果を生み出した。このQuakeのリリースとそれに伴う開発環境の公開こそが、Modの歴史に置ける大きな転換点であり、以後、Unrealシリーズをはじめとする後発のFPSタイトルはことごとくこのQuakeの成功モデルを踏襲しようとするようになる。これがMod興隆の歴史の始まりである。

リンク先の連載を担当している新清士の記事は、興味深い話題が多く考えさせられる論点も少なくない。ただし、PCゲームの世界についてはあまり知識のない人らしく、PCゲーマーにとっては、随分と前から当たり前になっている話題を、さも最近起こった新しい流れかのように報じたり、今回のModの歴史のようにPCゲームにおけるムーブメントについて、随分といい加減な記述をする事が多く、正直あまりいただけない。もっともこの傾向は、この人個人のウィークポイントと言うより欧米でのXBOX360の好調を受けてそのバックグラウンドにあるPCゲーム文化について注目される機会が増えてきた最近になって、コンシューマ系のゲーム記事全体で顕著になってきた現象のように思う。

*1:FPSを創始したのは、同じくid softwareのWolfenstein3Dだろう。

*2:DOOMのキャラクターは2Dグラフィックで作成されていたので、比較的に簡単に置き換えることができた。

*3:非営利を前提に“ユーザー向け”に公開したというのがポイント。

*4:世界で初めて本格的なオンライン対戦を導入したFPSでもある。